こんな商法が「詐欺ではない」というのは本当か?(前半)

いくつかのサイトでこの商法についてのの書き込みを見ていると、「こうした自動更新条項は他のネットサービスでもあるから、(申し込んだ方が請求を受けても)仕方ない」とか、「悔しいけれども、厳密に言うと詐欺ではない」とする気になる記載が散見されます。でも、本当にそれは正しいのでしょうか?

これは私の私見ですが、いずれの指摘も実は間違っている(正確ではない)と思います。

まず、自動更新条項によりお試し期間が過ぎると自動的に有料となるようなネットサービス、携帯サービスは確かに数多くあります。しかし、そこが自動更新条項があること自体か問題の本質ではありません。問題は、自動更新条項がある契約だということの十分な説明をしない、むしろ誤解を招く方向に説明、記載を行っていることです。

そうしたサービスは、契約前に有料化されること、また有料化時の月ぎめの利用料金をちゃんと口頭なり、ネットの申込みの部分で誤解が無いように何度も大文字や色違いの文字を使って、記載がされているはずです。つまり、納得して有料契約を継続してもらうために、利用者の誤解を避けるために何十にも工夫をしています。こうした努力をするのは、継続的な取引では、利用者との信頼関係の維持が重要であることを認識してるからです。例え今回は無料期間だけの利用で解約されてしまっても、信頼があれば次の機会には契約をしてもらえるかもしれない、だから信頼を損なわないために勧誘においても誤解を避けるように十分な注意を払う。そうした商人側からしてみると当たり前の配慮、努力を行っています。これは被害者となっている、中小企業の経営者からすれば自社の商売・取引で当然に行っていることで、取引相手も全く同じだろうと考えていることだろうと思います。

ところが、無料求人広告トラブルを起こしている広告会社はそのような努力をしているでしょうか。被害者の声をいくら集めても、口頭の勧誘説明は(無料だと強調を繰り返すだけで)自動更新の説明は一切無かった、説明はあっても更新前に確認の連絡をする、とにかく安心して利用してほしい、等の勧誘だったという声ばかりです。契約書も、他の文言に紛れるように(勧誘を受けた側が見落としやすいように)しか自動更新の説明文がないもので、かつ、途中で配達証明で送られてくるアンケートも単なるアンケート、オプションのダイレクトメールの形だけを取っており、「更新を希望しない片はアンケートを返信しないと自動更新されます」という文言も見落としやすいようにしか記載されていない。つまり、申込者が誤解をしないように工夫をするのではなく、誤解をするように工夫をしている。上記の一般的な、”まともな”ネットサービスとは真逆の対応です。

 簡潔にいうなら、自動更新されて金銭請求を受けた人で、さらに2度目の更新時にそのまま契約を続けている人がいるか?ということです。まともな自動更新のサービスなら、当初から納得しているので継続する人も多いでしょう。しかし、この悪質な無料求人広告の場合には、1度目の自動更新時に突然予想もしない広告料請求を受け、(それに応じて払った、払わないにかかわらず)その後もこな広告契約を解約せずにその後2度目、3度目と更新されるままの人なんてほぼいないでしょう(実際は広告会社はサイトの広告件数を水増しするために、トラブルになって解約されても掲載を続けるところが多数)。信頼関係をとって取引するつもりが、後者には全くないから当然です。

しかも、請求を受けた時に反発する利用者が数多く出ているのに、こうした勧誘方法、申込み書式をその後の勧誘時に変える様子もありません。同じ方式で次のターゲットを探し始めます。
そもそも電話一本で更新の意思確認もできるのに、一方的にアンケートを送りつけるだけで、返信なければ勝手に更新認めたものとみなしています。(ネットの企業なのに、メールや電話等で簡単にきちんとした意思確認もできる方法を採らず、逆に送る側に費用が普通よりかかる特別郵便で、こうした意思確認をしているのは矛盾しています。おかしくないですか)。
結局誤解する人が次々出るような状況をそのままの状態にして営業を続けている。もはや故意的にこうした営業形態を取り続けているとしか考えられない状況が十分にあります。そもそも、こうした請求を突然受けて、納得して支払に応じ、その後も継続してこうしたところのサービス(広告)を利用する中小企業が存在するでしょうか。継続的な契約を続けるために企業が大切にする、信頼関係の維持を最初からするつもりがない。申し込む前に、誤解を避けるように説明、配慮をしているのと、していないのとは法的には全く意味が違います。こうしたやり口の広告会社の商法が、他のまともなネットサービスと同じなわけないのです。ですから、まともな”ネットサービスと混同して、無料求人広告トラブルをおこしている広告会社の手法を問題ない、請求を受ける側が悪いなどとネットに書き込まれてうるような内容は誤りでしょう。


次に、こうした商法が「(厳密な意味では)詐欺ではない」というのはどうでしょうか。
(刑事上)警察も動かない、(民事上)相談先も詐欺とは断言しない、状況をみてそう思ってしまうのは仕方ないのかもしれません。しかし、だからといって「詐欺ではない」というのは正しくないと思います。

平たく言えば、「無料で誘っておいて、紛らわしい記載しかない説明書(契約書)しか渡していないのに、安心している人を背後から高額請求で殴りつけるような商法が、まっとうな商法だ」となんて誰も思わないということです。例えが難しく不正確なのを承知であえて例えると、道で無料だと言って配っているティッシュペーパーが裏面に「3週間後には残りを返却しなければ有料になります」と記入されていて、裏に小さく書いているからという理由を立てに突然金銭請求をうけるような商法に出くわせば誰もが「まっとうな商法ではない」「詐欺じゃないか」と感じるはずです。ところが、問題は「無料としか言わずに配っていたかどうか」をあとで証明するのが1人では難しいことにあります。

要は、契約前に十分な説明をしなかったら「詐欺」にはあたるけれども、「自動更新条項のあることを十分に説明をしていない(口頭で誤解する方向でしか説明しなかった)」ということが、(利用者側では)録音も取っていないので、実態を第三者機関に証明するのが難しい。
むしろ事前に交付された契約書等では確かに(他に紛れる程度の記載であるが)自動更新の記載はある、状態なので「勧誘時に自動更新の説明をしていない、むしろ誤解する方向に説明している」ということの証拠が十分ではないから、現段階では「詐欺」とまでは断言できない、というだけなのです。
つまり警察や、裁判所の視点から言うと、争っている当事者がいても公平な立場で検討しなくてはならないから、「勧誘時に説明に騙された」と言っていても、十分な証拠がないと怪しくても「詐欺」と断言することが難しいのです。ですから、「(勧誘時にちゃんと説明しないでこうした契約をさせることは)少なくとも民事上の詐欺にはあたる」けれども、勧誘時の状況を証明する証拠が乏しいので、簡単に「詐欺と断言することが難しい」ということなのです。

先日、北海道新聞で、被害者が他の広告に掲載されている会社に注意喚起の連絡をしたら、逆に広告会社から告訴されて書類送検された、という記事が記載されました。これは、(自己の体験だけに基づいて)証拠が乏しいままに、相手の活動を「詐欺」だと断言してこれを広めてしまったということによるものだと思われます。この警察の態度自体はいろいろ問題があると思いますし、コメントしている川村先生のおっしゃる通りだと思います。この点については、別の機会に書いてみたいと思います。

その他にも、この無料求人広告トラブルでは、広告会社側の検索サイトが全く知名度がなく、広告として効果が著しく低い、それに加えて高額な請求を行っている、という別の大問題もあります。
この商法を「詐欺まがい」というのもこの点から見ると間違いではないように思います。こんな著しく広告効果の低いサービスを提供してないこと、すなわち「確かにモノ(サービス)は提供してるけれども、価格に全く見合わない、ガラクタ同然のモノを売りつけられている」という意味では、「詐欺まがい」とも評価できるでしょうし。

ただ、広告の効果(単に求人の応募数だけに止まりません。厳密に言うと、応募までしていない方の閲覧数などが含まれます)立証するのはさらに難しい点があります。実際に情報交換をしている全国の弁護士からいただいた書面を見ると、裁判ではこの主張をしても、相手方も「SEO対策などをしてる」等反論書面を出しており、裁判所に認めてもらうのに苦労している状況にあるようです。この点については、論点が混乱するのでここも指摘だけにしておき、別の機会に譲りたいと思います。