求人広告詐欺の現在の手口(R.4年度)

弁護士 高良祐之

2022年02月02日 02:02

昨年末から、また求人広告詐欺の被害相談が増えてきました。
年が明けてからは、北海道や四国などの遠隔地からわざわざ沖縄の私にNHKの記事を頼りに
直接相談したいとの電話が複数あり、そのたびに被害連絡会MLに登録のある、
その都道府県の弁護士を紹介することが続いています。
とにかく情報の届きにくい、地方の中小企業が狙われています。

また、ML投稿やDMで問い合わせのあった何人かの弁護士からの情報では、
この詐欺商法が出てきた当初と若干手口に変化がみられるとのことで、
新しく被害相談にあった複数の弁護士からは、ブログの記載と違っているから、
これは請求に応じるしかないのではないか、といった問い合わせを受けました。
しかし、詐欺手法の実体は変わっておらず、単に小手先の工夫がされているだけだと
私は考えており、惑わされてはならないと思います。
そこで、最近の流行りの手口を少し整理したいと思います。

最近は以前の「配達証明」を利用した方法はほぼみられなくなりました
 これは、広告会社が配達証明に費用をかけるのが馬鹿らしくなった、ということだと思います。
わざわざ配達証明を突きつけなくとも、騙される相手からは金が取れるし、
(弁護士をつけてでも)争ってくる相手からは、配達証明まで利用していることが
かえって詐欺らしい証拠だ、と指摘反論する材料に使われるために、
もう費用のかかる配達証明など最初から付けずに争われたら次のカモを探しに行ったほうがマシだ、
と割り切った
のでしょう。
そういう意味では、手口が当初むしろ雑になっており、退化したのように感じます。

(R4.2.3追記)ネコポス等で代用してこの手口を使う広告会社はあるそうです。

②自動更新後の掲載期間が、半年や1年というような長期間となり、
 その分1件あたり広告料が30万円程度(+記事作成料、税金)
となる例が増えました。
 以前は3週間程度の無料広告期間の経過後、自動更新されても同じ期間を1期間として、
その都度費用(1広告15万から20万が各期間毎に積み重なっていく)が発生する形でしたが、
これが更新されると有料時の掲載期間が半年や1年といったものになっています。
 これは、弁護士側からの支払い拒絶の理由の一つとして、3週間で15万といった広告料金は
従前の求人広告料金と比較して異様に高すぎるので、本件契約は公序良俗違反で無効だ、
という指摘が繰り返されているため、これを回避するためだと思われます。
更新後の期間を半年、とか長期間すると、月単位での広告料は
一般の求人広告雑誌の掲載料と大して変わらない、だから暴利な請求ではないし、
この広告契約は有効だ、という言い訳を考えてきたわけです。
 しかしよく考えると求人広告なんて、1回応募・採用があれば一般の中小企業では
もう掲載する意味がなくなります。常時人手不足で継続して求人募集をしておく必要が
あるような会社・業種はごくごく一部に過ぎません。
それを当初から、1回更新後は半年、1年契約だ、と制度設計していること自体が
さきの求人広告の上記性質からすれば、大変無理・不自然
になっています。

求人広告HPに自動更新や解約手順(書式ダウンロード)が掲載されるようになった
 最近の求人広告詐欺の業者は、その求人サイト上に注意事項として自動更新であることを
掲載したり、解約時の手順を記載するようになりました。
これは、(自動更新を知らなかったとして)支払い拒絶をする会社に対して、
「HPでも大きく注意事項として掲載しているのだから、知らなかったでは済みません」
と言いくるめるのに使ったり、中小企業側が途中で怪しいと気がついて無料期間のうちに
解約しようと慌てて電話連絡(繋がらない)、faxやメールで解約通知をとしても、
HPに記載した手順ではないから解約されていません、または連絡は届いていません、
といって支払いを求める事案がML上報告されています。
これは、掲載を申し込んだのに、その掲載サイトHPをよく見てもいなかったんですかと
広告業者から責められ、多少の罪悪感を感じるようにて心理的に追い詰めて、
中小企業側に諦めて支払いに応じさせるのに利用している
と思われます。
 でもよくよく考えてみると、聞いたこともない求人広告会社からの電話勧誘で、
無料なので広告を載せないか、と勧誘されても、普通はまあタダならダメ元で申し込んでみるか、
という感覚でしか申し込んでいない方が殆どです。
そのため、業務に忙しい中で、いちいち掲載HPにアクセスしない方が多いのが当然です。
 その上、実際は申し込み後の確認メールで、掲載時のデータ画像や、掲載ページのURL
(注意事項の掲載されたトップページではなく、当該求人の載っているページのもの)が
見本として送られてきます。
元々他の会社の求人広告がどんなものになっているのかなんて気にしている訳はないので、、
申込込みした会社も送られてきた自社についての掲載データや、
URLをクリックして現れる自社の掲載ベージのみ見て終わってしまい、
注意事項が記載されたページまでわざわざ遡って見るような申込者は元々少なくなるのです。
 結局、最初の電話勧誘時にきちんと有料化される自動更新条項の説明がなければ、
このようなHP上に記載をしても殆ど申込者がわざわざHPの記載を見ることはないし、
この商法の問題点に気がつくことにはつながりません。

これも広告業者側の単なる小細工の一つとして捉えるべきでしょう。

運営会社が〇〇合同会社、□□運営事務局、複数サイトを展開、という潮流
 求人サイトHPを見ると、□□運営事務局、との記載しかされていないところが
圧倒的に増えました。その後に送られてくる請求書などを見て、
ようやく運営会社は〇〇合同会社で、その住所はここなのか、とわかる程度です。
合同会社形式が増えているのは、以前の株式会社形式だと設立や、休眠会社を買い取るのよりも
楽に設立ができるからなのでしょう。
 また、大抵は3つ程度、別々の名前の求人サイトを展開していることが
MLの弁護士からの投稿や、被害者の集まっているサイトの情報からわかっています。
おそらく、被害にあった個別の中小企業が、単独では実態を把握できないように工夫し、
また悪評が高まってそろそろヤバくなったら、そのサイトを閉めて、
別名のサイトをすぐに立ち上げられるようにしているため
だと思います。